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コラム

在洛杉磯自言自語〜L.A.独白 第3回
――マイノリティーにも配慮を! コロナ渦で感じる心細さ

泉 京鹿

アメリカ、日本、ヨーロッパ……第2波、第3波云々という言葉がネット上に飛び交っているけれど、もはや波の有無ではなく、いたるところに感染の可能性が存在していると思わなければならないようだ。

日々アップデートされているカリフォルニア州の公式ページによれば、2020年11月18日午前11時に更新された17日までの感染確認者数は104万7789人、死者1万8360人。人口4000万人に対するこの数字はもちろん決して低くはないが、検査件数もまた2141万8543件に上る。

日本で同じように検査件数を拡大すれば、実際の感染者数は現在のような数字で済まないのではと思わずにいられない。アメリカに比べれば少ないとはいえ、確実に増え続けている日本の感染者数の推移を、そんな懸念を抱きつつ見つめている。

カリフォルニアでは検査は無料だ。我が家も家族3人、11月10日にPCR検査を受けた。対面授業の学校再開に向けて、幼稚園から高校まで教職員、児童、生徒およびその同居する家族の全員検査を目指すとしてロサンゼルス統一学区(LAUSD、Los Angels Unified School District)から各学校を通じて検査(COVID-19 Test)を受けるよう通知があったからだ。

この通知がメールで送られてきた時点では感染者数もいくらか減少傾向にあり、学校再開への希望が膨らみ始めた時期でもあった。その後、ハロウィーンや大統領選など人の集まるイベントが相次いだせいか連日感染者数は増え続け、さらに感謝祭の連休という感染拡大要素も目前に迫っている今、学校再開への希望もしぼんでいきつつある。しかし、地道に幅広く検査を重ねることは対策としてやはり必要不可欠であると思う。

COVID-19 Testは、指定サイトから時間、場所を選んで自分で予約する。会場は主に地域の学校だが都合のつく日時に近所が空いていなかったため、車で15分ほどのところにあるミドルスクール(中学校)で受けることに。

娘のSTUDENT IDをはじめ家族の生年月日など必要事項を入力して予約を入れると、返送されてきた確認メールには娘の名前と自分の名前があり、計3人と記載されていたが、現地に行ったら夫の名前がなく、わたしの名前がダブって登録されていた。出直さなくてはならないかと焦ったが、「今ここで予約すればいい」といわれ、スマートフォンで追加の予約を入れるのを待って処理してくれた。

その日の分は締め切っていたため、翌日の枠に予約を入れ、検査はその日のうちにやってしまうという裏技だ。トラブルにこうして融通を利かせてくれるというのはありがたい。日本で日々感じていたことだが、なんでもシステマティックになりつつある今、一見便利になったようで、ちょっとしたミスの修正がきかず、最初からやり直すしかなかったり、わざわざ出直さなくてはならなかったりして、かえって時間がかかることは少なくない。

10年前まで住んでいた北京でも、一見融通が利かなそうに見えて、交渉次第でなんとかなることはよくあった。アメリカでも中国でもケースバイケースだとは思うが、これを臨機応変な対応ととるか、システムの穴や抜け道、不徹底ととるか、考え方次第で受け止め方は異なるかもしれない。

COVID-19 Testの検査スタッフはほとんどが黒人女性。「ハロー!」と笑顔を浮かべ、みんなフレンドリーだ。そのうちの1人が英語の拙いわたしたちに、「アンニョン!」と笑いかけてきた。キョトンとしている娘に慌てて「ニーハオ!」と言い直す。「日本人なんです」と笑いながら英語で伝えると、「まあ!ごめんなさい!こんにちは!」と満面の笑み。これはわたしたちが韓国人や中国人に見えたのではなく、単純にこの地域は日本人が少ないということだろう。

実際、この辺りはロサンゼルスの中でもアジア人が特に多い地域というわけではない。なかでも日本人はマイノリティーなのだと実感する。それでも、アジア3カ国の挨拶を次々と繰り出すその女性のおかげで、わたしたちの緊張感は緩んだ。結果は24時間後にメールで通知。陰性。あらためてほっとする。

ロサンゼルスに来てから、娘の小学校の転入手続きをはじめ公的な手続きの資料やサイトの説明など、スペイン語に続いて中国語(繁体字が多いが簡体字もある)、韓国語は時折目にするが、日本語はほとんどみられない。世界中どこにいっても小さな島国の日本がマイノリティーであるのは仕方がないけれど。

中国で外国語表記といえばまず英語だが、商業施設、観光地の案内やチケットの裏に書かれた説明などでは、日本語がその次くらいにくることも少なくなかった。外国にいるのだから母国語の説明がないのは当たり前と思ってはいても、終わりの見えないコロナ禍の中の不自由な生活のせいか、思いのほかこの事実に心細さを覚えた。

翻って、いまの状況で日本にいる日本語が母国語でない人たちはどれだけ心細い思いをしているのか。東京で今年オリンピックが開催されていたら、あるいは違っていたのかもしれないが、外国語やマイノリティーに対する配慮は、今こそ強く求められるのではないか。「ハロー!」「アンニョン!」「ニーハオ!」「こんにちは!」……せめてシンプルな挨拶だけでも、さまざまな言葉が飛び交う日本であってほしいと願わずにいられない。



執筆者プロフィール:
泉京鹿(いずみ・きょうか)
中国文学翻訳家。1971年東京生まれ。フェリス女学院大学文学部日本文学科卒。北京大学留学。訳書に、余華『兄弟』、郭敬明『悲しみは逆流して河になる』、王躍文『紫禁城の月:大清相国清の宰相陳廷敬』、閻連科『炸裂志』、九把刀『あの頃、君を追いかけた』、林奕含『房思琪の初恋の楽園』など多数。

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